「永い言い訳」を観て
印象に残った言葉が三つある。
一つ目は、「子育ては男にとって免罪符」
二つ目は、「人生は他者だ」
三つ目は、「自分を大事に思ってくれる人を、簡単に手放しちゃいけない。…ぼくみたいに、愛していいひとが、誰も居ない人生になる」
あらすじ(公式サイトより)
妻を亡くした男と、母を亡くした子供たち。その不思議な出会いから、「あたらしい家族」の物語が動きはじめる。
人気作家の津村啓こと衣笠幸夫(きぬがささちお)は、妻が旅先で不慮の事故に遭い、親友とともに亡くなったと知らせを受ける。その時不倫相手と密会していた幸夫は、世間に対して悲劇の主人公を装うことしかできない。そんなある日、妻の親友の遺族―トラック運転手の夫・陽一とその子供たちに出会った幸夫は、ふとした思いつきから幼い彼らの世話を買って出る。保育園に通う灯(あかり)と、妹の世話のため中学受験を諦めようとしていた兄の真平。子どもを持たない幸夫は、誰かのために生きる幸せを初めて知り、虚しかった毎日が輝き出すのだが・・・
「子育ては男にとって免罪符」
陽一の子どもとの生活を続け始めた幸夫がマネージャーの岸本に岸本の子どもと写った写真を見せられながら、言われたセリフ。
「子育ては男にとって免罪符ですよね。子育てしてる間はどれだけ自分がクズでもそれを忘れられるから。」
マネージャーの岸本が仕事に向かわず、妻の死を受け入れずに、子育てを始めた幸夫へ逃避していると述べた場面。
自分は子どもはいないので、理解が足りないかも知れないが、子どもの前だと素敵な大人でいようとする。自分がどうしようもない人間かどうかとか言うことを強制的に考えなくても良くなって、素敵な大人でいられる。
子どもがいれば、自分について考えられなくなると言うのは良くも悪くもあるものだと思った。
「人生は他者だ」
終盤に幸夫が電車の中で手帳に記す言葉。
もともと愛のない夫婦だったのに。その妻がいて自分の人生があったことに気づく。
他者のないところに人生はないんだって。
想うあのひとがいるから生きていられる。
手帳に記すシーンは短いので、原作小説の言葉も含んだ。
人生は他者だ、自分はいつも誰かがいるから生きようって思う。
若い時は大好きで大切にしたいと思う人を探すための人生だった。
「自分を大事に思ってくれる人を、簡単に手放しちゃいけない。…ぼくみたいに、愛していいひとが、誰も居ない人生になる」
陽一が交通事故にあって、陽一の息子の真ちゃんと一緒に陽一の元に向かう場面。真ちゃんがお父さんみたいになりたくないと酷いことを言ってしまったことに対して幸夫が慰める言葉の一部だ。
愛すべき人をきちんと愛さなかった幸夫の後悔から来る言葉だ。
愛すべき人をきちんと愛さなければ、もうその人を愛することはできないし、誰かを代わりに愛せばいいものじゃない。
幸夫はどうしようもない人だ、妻の気持ちを考えられていなかったし、裏切っていた。
どうしようもない人が幸せになる映画ではないと思う。幸夫が後悔しつづける人生になると気がつく映画だと思う。
愛すべき人をきちんと愛さなければ、その先、続く人生はずっとの後悔だ。
死んだ妻に何も話せない。
言葉にできない永い言い訳。